2012年4月4日水曜日

ジョナー・レーラー著「Imagine: How creativity works」(2012年 出版)

目下、NYタイムズ・ベストセラー(ノンフィクション部門でトップ)。

タイトルを私なりに意訳すれば、「創作/発明/発見への糸口: 想像力/好奇心を駆使せよ」

著者はコロンビア大学/オックスフォード出身の神経生理学者(ノーベル生理医
学賞の受賞者エリック・キャンデルの弟子)だが、後にジャーナリスト(雑誌
「Seed」の編集者) として活躍し、色々なエピソードを面白く盛り込んで、
科学 (特に脳の機能や生理学) を一般大衆に分かり易く紹介することに貢献。
著書「How We Decide」(決断へのプロセス)はNYタイムズ・ベストセラーの1つ。

「How We Decide」について、ある「アマゾン」書評家は感想をこう述べている:
emotional brain(感情を司る脳の部位とそれによる決断)と rational brain
(合理性を司る脳の部位とそれによる決断)のバランスの重要性を説いている。
第一印象の直感的な理解力の重要性を説いたマルコム・グラッドウェル著「Blink」
とよく比較されるのは、テーマが似ているだけでなく、紹介する逸話や実験の選
択も類似しているからだろう。読者を引き込む面白いエピソードや実験で決して
飽きさせないところも共通している。だが、最大の差は、グラッドウェルがジャー
ナリストであるのに対し、レーラーがノーベル賞受賞者のラボに勤務したことが
ある神経学者だということだろう。疾患のせいで感情を失い完全に合理的になっ
た患者がかえって決断力を完全に失ってしまうというエピソードなど、神経学者
だからこそ着眼し解説できる逸話がレーラーの強みだ。
「前代未聞」を想像する力: 脳「右半球」の役割
我々の脳は機能的に、大きく左右(左半球と右半球)に分かれるが、ごく最近ま で、右半球の機能がしばしば軽視されがちだった。ところが、NIHの若い神経 学者、マーク・ビーマンらの研究によれば、「木を見て森を見ず」といった近視 眼的な物の見方は、実は脳の「右半球」に機能欠陥がある所産であるそうだ。 「右半球」に欠陥がある患者には、地理感や絵心、ユーモアを解するセンス(精 神)や水平思考能力が乏しいという研究結果が出た。「右半球」がフルに機能し ないと、2つの類似した物体や自然現象、人物や事柄の間に横たわる共通点を見 つけることができず、「男尊女卑」や「人種差別」などの偏見(心の狭さ)をもたらす原因になる。
「種の起源」という本で進化論を唱え始めたチャールズ・ダーウインは、水平思 考で、動物界や植物界に見られる種の違いや類似性から、我々人類の起源が「サ ル」(類人猿)や他の哺乳類にあることを発見した。アイザック・ニュートンは、 木からリンゴの実が落ちるのを観て、(地球の重力を含めた)「万有引力」の存 在を想像/発見した。これら自然界に潜む様々な目に見えぬ「謎」を解く鍵は、 我々の頭の「右半球」をフルに活用することにある。面白いことには、難問が解 けた瞬間や素晴らしい「インスピレーション」(ひらめき)が頭に湧いた瞬間 (正確にいえば、その数秒前)に、右半球の「aSTG=前部上側頭溝」という 部位(右耳の上方にある)にある神経細胞の活動が急に活発になり、「ガンマー 波リズム」が走ることが、最近になって、マーク・ビーマンとジョン・クーニオ スとのEEG共同研究によって明らかにされた。aSTGは、一見関連のなさそ うな事物の間に、未知の関連性を見つける働きを持つ。
面白いことには、ワインなどをチビリチビリ飲みながらリラックスしている時に、 ひらめきが突然やって来る場合が往々にある。リラクゼーションと酒が創造性 (連 想) にもたらす効果は一体何だろう?。我々は、ジョギングやシャワーで疲れを癒 やしたり、うたたねで夢を見たりするまで、内面の集中のスイッチを切ることや 脳の右半球の奥で展開されている「でたらめな連想」(夢想)に耳を傾けること ができない。謎解きのため「洞察」が必要なとき、こうした夢想/連想が往々に して答えの出所になる。このEEG研究は、あまりにも多くの大発見がかなり意 外な場所で起きている理由をも裏付けている。アルキメデスは浴槽で「浮体の原 理」に気付き、物理学者のリチャード・フェインマンはストリップクラブで数式 を書いていたではないか。「相対性原理」を発見したアインシュタインもこう述 べている。「創造性とは、無駄にした時間の残留物なのだ」
続く