2013年7月8日月曜日

若者よ、「水平思考」を忘れるな!

奥歯が機能していると、Alzheimer病 (AD、認知症) になり難い (学習した
記憶を忘れ) 難いという結論を出した某大学の名誉教授がいるという記事が最近、
日本の大手某新聞のオンライン版に載った。 当初、面白いと思ったが実験データ
を詳しく読んでみると、結論的には、この教授あるいは研究グループは、いわゆ
る「垂直思考」の落とし穴にまんまと落ち込んだようである。1967年にオッ
クスフォード大学のエドワード・デ・ボノ教授が提唱した、いわゆる「水平思考」
を、この研究グループはすっかり忘れてしまったようだ。どうやら、マウスでは
なく、研究者のほうがADにかかり始めているぞ、というのが私自身の感想であ
る。

問題の記事を要約すると、下記のごとくである。

遺伝子操作でアルツハイマー病を発症するようにしたマウス(17, 生後6か月) を、
 左右の奥歯6本を抜いたもの(10) と残したもの(7) に分けてから、暗い部屋に
入ると電気ショックを受けること (パブロフの条件反射 passive avoidance) ) を覚えさせた。
約4カ月後に条件反射を調べると、歯を残した方は7匹全てが暗い部屋に入らなかった
(つまり、記憶は正常!) が、抜いた方は10匹中6匹が入った (つまり、残りの4匹は
奥歯なしでも、記憶を保持!)。

Passive avoidance test was performed to evaluate learning and memory abilities
right after tooth extraction (6 months old) and 4 months later (10 months old).

私は「水平思考の名人」(垂直思考はむしろ苦手!)だから、視点を変えて、上
記の「括弧書き」の部分に注目した。先ず、最初の括弧書き、この「アルツハイ
マーマウス」の記憶は(奥歯が機能していれば)正常である。つまり、この条件
反射実験では、アルツハイマーに伴う「記憶喪失」は検出できないことになる。
次の括弧書きでは、4匹のマウスは奥歯なしに、条件反射を示したという、驚く
べき結果である。つまり。奥歯はこの種の学習と記憶には、必ずしも必須ではな
い、と結論できる。さて、残りの6匹は奥歯を抜かれた後、条件反射を習得でき
なかった。なぜなのだろうか? 

私が実際に6本の奥歯を無理矢理に抜かれた場面を想像してみた。麻酔を
かけてもらっていても、ひどいショックとストレスを感じるだろう。その直後に、
条件反射の実験(条件付け)をやられても、恐らく、電気ショックなど感じない
だろう。奥歯を6本抜かれたという「拷問」のほうがずっと意識に強く残るからだ。
奇跡的にも、4匹のマウスは奥歯を抜かれるという拷問にも拘らず、電気ショックを
ちゃんと記憶していた。我々人類はそのタフガイさに脱帽せざるをえない! 

なぜ、6匹と4匹に差が出てきたのだろうか? 私の推測であるが、10匹のマ
ウスから、それぞれ6本の奥歯を抜くには、相当の時間がかかるだろう。最初に
「抜け歯」されたマウスと最後に「抜け歯」されたマウスの間には、2ー3時間
のガップがあるに違いない。その後、麻酔がとれた時点で、マウス10匹をまと
めて、暗箱を使って電気ショック実験をしたに違いない。従って、麻酔がとれて
から、条件反射実験をされるまでの時間に関して、最初のマウスと最後のマウス
の間には、「抜け歯」による拷問に苦しむ時間に大きな差が生じる。結果的に拷問を
長らく受けたマウス6匹は記憶を失ったが、拷問時間が短かったマウス4匹は辛うじて
記憶を保ったと解釈(水平思考)したらどうだろうか? 私の頭脳はかなり繊細
なので、虫歯がひどく痛み出すだけで、思考が全く止まってしまうケースがしば
しばある(歯医者にとっては、絶好の「カモ」である!)。

とにかく、この実験は「非人道的な拷問」を伴うもので、奥歯の学習における寄
与を直接研究する手段としては、不適切である(乱暴過ぎる!)と、私自身は思
う。もし可能ならば、「遺伝的に奥歯のない」マウスをクローンしたのち、この種の実験を
すべきだろう。

そこで、そんなマウスが存在するかどうか検索したところ、歯のない(toothless)
マウス(op/op) が既に存在することが判明した。このマウスは増殖因子の一種で
あるCSFー1が欠損しているため、歯が生えない。 ところが、このマウスに正
常なCSFー1遺伝子を発現させると、正常な歯が生えてくるマウス(op/opT)
になる こともわかった(1)。従って、この2種類のマウスの間で、学習/記憶
能力に差があるかどうか調べることによって、(抜け歯という「拷問」なしに)
歯全体の寄与を明らかにすることがいつでも可能である。

最後に「水平思考」の大家チャールズ・ダーウインの進化論に沿って、この問題を
考え直してみよう。 動物界には、歯をもたない無脊椎動物が沢山存在する。
例えば、ショウジョウバエとかミツバチとか線虫の類である。これらの動物も、我々
哺乳類と同様、条件反射や他の学習能力を示す。 従って、歯は基本的には学習や
記憶には必須でないことが明白である。

Endocrinology. 2002 May;143(5):1942-9.

Rescue of the osteopetrotic defect in op/op mice by osteoblast-specific targeting of soluble colony-stimulating factor-1 (CSF-1).