2013年10月13日日曜日

「Dear Life」: アリス・マンロー(82) の最後の短編集

2013年のノーベル文学賞がカナダの短編作家、アリス・マンロー(82)に授与される
ことになったのは、文学通なら誰でもご存知だろう。 新潮社から、彼女の作品の
邦訳が(小竹由美子訳)で、2006-2010年にかけて、少なくとも3点出版されている
: 「イラクサ」、「小説のように」、「林檎の木の下で」などである。村上春樹 (早稲田文卒、
64) が、この老作家のために、今年も禁断の木の実を食べ損なった!
若者よ、長生きして、時機到来をジックリ待とうではないか!

さて、ノーベル賞発表の翌朝、行き付けの書店に出かけて購入したのが、
マンロー女史の最後の短編集「Dear Life」である。 邦訳が (新潮社) から、
間もなく出版されるそうだ!  約300ページの本で、短編が合計14編掲載されている。
最後の編が表題の「Dear Life」だった。 この作品は、言わば「若き日の思い出」
を綴ったもので、亡くなった母親の面影を中心に、楽しかった昔の日々を語って
いる。恐らく、彼女の (来るべき) 回顧録の第一章に相当すべき作品で、余韻を
残しながら終わっている。。。

最初に出てくる短編の表題は「To Reach Japan」だ。 日本のことが書いてあると
期待して読んだら、間違いなく失望する!  私の推測では、この奇妙な表題は、
2年ほど前に起こった東北大地震と津波で、海に流された残骸が、半年後にとうと
う太平洋の対岸までたどり着いたというニュースを読んで、考え出したものだろう。
話の女性主人公「グレタ」は、ソ連の衛星国チェコからカナダの西海岸バンクーバーに
亡命してきた未亡人。 息子ピーターが結婚した後、ある日、友人の住むトロントに
汽車で出かけた。 そして、あるパーチーで、ジャーナリスト (ハリス) に遭遇する。
彼の妻は精神病院に入院中だった。2人が別れてから、グレタはハリスの夢ばかり
見るようになる。

ある日、彼女は彼宛に、一通の短いメモを(相手の住所もわからぬまま) 書く:
こんな手紙を書くのは、空き瓶にメモを詰めて、海に託すようなものだ。 願わくば、
日本に着きますように。。。   これが、この短編の表題の由来だ。  この一編も
タップリ余韻を残しながら、終わる。。。   従って、「余韻」の好きな読者には大い
に楽しめる作品集である。

 しかしながら、感動を呼ぶような作品は一つも見当たらない!   「短編の名手」とは、
とても言いがたい。  かの有名な短編「最後の一葉」を書いたオー・ヘンリー
(1862-1910) が、(ノーベル賞は受賞しなかったが)  正に「短編の名手中の名手」で
あったことを改めて痛感した!