2014年に神戸の理研で実際に発生し、上司の自殺まで招いたいわゆる「小保方のStab細胞ねつ造事件」を予測、予言するかのような小説である。 もっとも、小説では誰も自殺しないし、教授と弟子は首尾よくノーベル賞をもらう。 従って、「ハッピーエンド」ではあるが、教授にも弟子の学生にも、ある種の後ろめたさが残る。一体何故か?
その理由を詳しく、この小説は我々読者に、絶妙なタッチで語りかける。著者が「ピル」の発明家(セックスの専門家)だけあって、研究生活の描写ばかりではなく、濃厚なセックスの場面が何度か登場することも (読書欲をかき立てるために) 敢えて加筆しておきたい。 もっとも、「ピル」のおかげか、誰も妊娠しない!
主人公「カンタ―教授」が提唱したと言う発癌メカニズムに関する理論(仮説)は、我々専門家の目から見ると、余り頂けない(現実性が乏しく、ノーベル賞には程遠い)が、その仮設を実証せんとする実験をめぐるサスペンスとユーモアがこのSFの醍醐味である。悪者「クラウス教授」のペテンがカント―教授とその一番弟子の信頼関係を崩すところが、事件(スキャンダル)の発端となる。そのペテンと動機をいかに暴き出すかが、このSFの核心である。
なお、著者本人は(ノーベル賞候補に挙げられながら)受賞せぬまま、結局2015年に91歳で(波乱万丈な)長い生涯を終わる。。。