2008年4月22日火曜日

癌のブドウ療法(Grape Cure)

1916年に、当時40歳だった南ア出身の(自然療法)女医ジョアナ・ブラントは、母親が癌で死んでからまもなく、自分も胃癌にかかっていることを知った。まずアプトン・シンクレア著「断食療法」(1911年)を試みたが、彼女の癌には効果がなかった。そこで、断食と食餌療法を適当に組み合わせることによって、何とか癌を根治しようと色々試みた。その結果、肉食は癌の増殖を促すが、菜食は癌の増殖を抑えることにまず気づいた。さらに、特にどんな野菜や果物が癌の抑制に寄与するかを検討した結果、赤ブドウ療法が一番良いという結論を9年間にわたる研究によって得た。彼女は1928年に(南アから米国に移民して、ニューヨーク郊外に「ハーモニー・センター」という食餌療法センターを設立後まもなく)、「天然(化学肥料を使わないで)栽培した赤や紫色のブドウの絞り汁を毎日飲んで、自分の胃癌を根治した」という体験を「(癌の)ブドウ療法」(The Grape Cure) というタイトルで、100ページ弱の本にして出版した。その後、彼女は40年以上、健康な生活を全うしたそうである。

ここでは、そのごくエッセンス(さわり)だけを手短かに紹介するにとどめる。
準備(断食): この食餌療法の直前に、2、3日間の断食を勧める。その期間、冷たい水や新鮮なレモンの絞り汁を十分に飲んでもらいたい。この断食は、胃袋を空っぽにすることによって、ブドウへの食欲を増進することに役立つ。
断食後: 朝一番にグラスに1、2杯の冷たい水を飲む。
本番(ブドウ療法): できれば午前8時から午後8時まで、2ー3時間毎に、赤ブドウだけを丸ごと、あるいはジュースにして、皮も含めてよく噛んで飲み込む。この食餌療法を1、2週間続ける。
分量: 少量から一日毎に2倍づつ量を増やしていき、最終的には、日毎に0。5キロから2キロまで、試してみるとよい。ただし、食欲がないのに、無理矢理にブドウ(汁)を摂取するのは避けたい。食欲とよく相談しながら量と回数(日に5ー7食)を決めよう。

さて、この赤ブドウ汁の中にある抗癌作用を持つ物質は一体何だろうか? 以後70年以上の月日をかけて、多くの学者によって、「ブドウ療法」の科学的根拠を探る研究がなされた。ようやく1997年になって、米国シカゴにあるイリノイ大学のジョン・ペズットのグループによって、その抗癌物質が「レズベラトロル」というポリフェノールの一種(R3、水酸基を3つ持つスチルベン)であることがつき止められた。

「R3」は、赤ブドウの主に果皮の部分に含まれている。従って、この果皮を使って作られる赤ワインにはR3が豊富だが、(赤い果皮を使わない) 白ワインにはR3がほとんど含まれていない。従って、赤ワインを適度に飲めば、癌の予防や治療に役立つと考えられる。そこで、(子供向けには)グレープジュース、(大人向けには「赤ワインを適度に飲んで、健康的な新年を迎えよう! と年賀状に書くことにした。
さて、2002年に英国のライセスターにあるデュモンフォート大学のジェリーポッターのグループにより、R3は癌細胞内に豊富にある酵素の働きによって、さらに水酸化されて、より制癌作用の強い「ピシアタノル」(R4)という誘導体に変化することがわかった。正常細胞にはこの酵素が少ないので、R3は癌細胞の増殖を選択的に抑制することができる。それでは、R4はいかなるメカニズムで、癌細胞の増殖を抑えるのだろうか? 

1994年に米国ニューメキシコ大学のジャネット・オリバーのグループによって、R4がチロシンキナーゼの一種である「SYK」を特異的に阻害することが明らかにされていた。さらに1997年になって、米国ロチェスターにあるメイヨー病院のポール・リスボンのグループによって、この「SYK」がPIー3 キナーゼの活性化に必要であることが発見された。従って、R4は最終的にはPIー3 キナーゼの下流にあるキナーゼ、PAKやAKTなどの活性化を遮断することが、2002年に米国のフロリダ州にあるリー・モフィット癌センターのジュリー・デュジューのグループによって、実際に証明された。

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